堕落ディザイアー

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今までの人生を思わず振り返りました 『ミスター・ノーバディ』 感想

ミスター・ノーバディ(字幕版)

 

2009年のフランス・ドイツ・カナダ・ベルギー合作の作品です。ジャンル分けが難しいです。ファンタジーとも人間ドラマともSFともミステリーともとれます。どの要素も含んでます。

 

久しぶりに引き込まれて離れられないような映画を見ました。圧倒的な映像世界とストーリーでした。

 

 

 

ストーリーは「一人の男の何パターンもの人生を追った物語」です。科学の発展で人類皆が永遠に生きられるようになった2092年に、寿命で死ぬことを選んだ最後の人類である主人公・ニモが死に際に語る回想が描かれます。その回想はいくつもの人生のパターンが複雑に絡み合ったもので、時系列も前後しながら話は進みます。

 

離婚する両親のどちらについていくか、という9歳の時の究極の選択からニモの人生は幾通りに分かれていきます。誰と結婚するか、ある日の会話に何と答えるか、店でどの商品を買うか……といった大小様々な選択から更に枝分かれが進みます。本当に愛する人と結ばれる人生も妥協のように他の人を選んだ人生も、逆に最愛の相手ではない自分が選ばれた人生もあり、悲劇に見舞われる人生もあり、その悲劇を乗り越えた先に別の困難が待ってる人生もあります。選択によってニモの生きる状況も様々です。

 

そんな幾通りもの人生が展開されて、色々なことがはっきりと結論づけられないまま終わる映画です。解釈も人それぞれだと思うし実際ネット上の感想では多様な考えが溢れてます。

 

 

 

抽象的でシュールでアート的な表現も多くあって、その一方でバタフライ効果超ひも理論なんかの時間軸系SFでおなじみのワードも出てきます。理論的な正解なんて最初から決められてないような芸術作品にも思えるし、繰り返し見て解釈を固めていくハードSFにも見えます。一人の男の人生を追う感動ものの人間ドラマとして見ても面白いです。明確な答えはもらえないのに見終わった後は不思議なカタルシスに包まれます。そしてもう一度見たいと思わされます。

 

作品全体としての解釈を考えるのも面白いし、いくつものパターンで展開されるニモのドラマ自体もそれぞれ面白いです。個人的には作品の前半、ニモの青春時代の話が一番好きです。ニモの青春時代も彼の選択でいくつもパターンがありますが、その中の一つでヒロインを演じたジュノー・テンプルという女優がとにかく可愛かった。「初恋の甘酸っぱさ」が生きて歩いてるような女の子でした。ジェニファー・ローレンスみたいな不思議な色気があります。

 

少年時代のニモを演じたトビー・レグボも繊細で内気でミステリアスな雰囲気が良かったです。主演(大人のニモ)のジャレッド・レトより好きでした。女の子みたいにきれいだし。ずるい。

 

 

 

色々な選択が作用して大きく様変わりするニモの人生を見ていると、やっぱり自分でも過去を振り返って今までの選択のことを考えてしまいます。誰もがそうだと思うし、僕もいくつか「もしあの時こっちを選んでたら今どうなってたのかな」と思う場面があります。正解だったと思う選択も後悔が残る選択もあります。これからもそういう場面に出くわすだろうし、それが楽しみにも面倒くさくも思えました。全部分かってたら楽なのに、とも感じるし、だからといってこの先の人生のパターン全てが見えてしまったらどんなハッピーエンドが待っていたとしても絶望するような気がします。楽しくなくなりそう。

 

作中では原因と結果の因果についてや時間・次元について難しい用語や理論が語られます。理解しようと考えながら観てはいたものの自分の知識不足で理解できなかった部分も間違って考えた部分も多いと思います。色々な考え方が次々に展開されて、未来には無限の選択肢が広がってるようにも、自分の行動で未来に影響を及ぼせるなんておこがましいとも思わされました。

  

 

 

小さな因果で未来が変わるバタフライ効果を扱う映画ということで名作SFの『バタフライ・エフェクト』が連想されたし、つながりのある複数の物語が入り交じって展開する作風は『クラウド・アトラス』を思い出しました。SFチックなファンタジーが好きな人なら話にがっつりハマれるだろうし、夢の中を覗き見てるような不思議な映像世界は見ていて飽きないし綺麗だとさえ思いました。

 

情報量も構成も凄い話なのでとても一回観ただけでは物足りません。もう一度観たらもっと気づけることが多いだろうな、と思います。ただ観終わったすぐはけっこう疲れます。濃いし長いし。

 

物語としても相当面白かったし、もう一度観たいと思える映画は久しぶりです。濃厚で疲れる映画だけど絶対にまた観ないと。次はいつ観よう。メモを用意して観たいです。

 

あとジュノー・テンプルがとにかく可愛い。この子だけのために観る価値がある。以上。

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英雄潭のその後 『ハドソン川の奇跡』 感想

ハドソン川の奇跡(字幕版)

 

2016年のドラマ映画です。実際にあった飛行機事故とその後の物語を描いています。

 

アメリカの旅客機が両エンジンが止まる非常事態に陥ったにもかかわらず、ハドソン川に着水して乗客乗員全員が生還という奇跡に近い事故でした。当時ニュースで話題になったので覚えている方も多いと思います。

 

USエアウェイズ1549便不時着水事故 - Wikipedia

 

長年の勘から空港まで飛行機がもたないと判断したサレンバーガー機長は咄嗟に近くのハドソン川に不時着水することを決断し、結果的に乗客乗員を救った英雄としてメディアに取り上げられました。この映画ではその機長を主人公に据え、緊迫の事故とその後の事故処理での彼の苦悩を描いています。

 

 

 

機長を演じるのは名優トム・ハンクスです。寡黙で生真面目で落ち着いた人柄の機長役は普段の彼とはまた違った味わいがありました。終盤の実際の映像で出てくるサレンバーガー機長と雰囲気がそっくりで作り込まれた演技の凄さに驚きます。

 

副操縦士を演じたアーロン・エッカートもいい味出してました。「ダークナイト」「エンド・オブ・ホワイトハウス」などアクション映画を中心に知られる実力派です。ピンチの時や重い空気の中でも冷静に行動して場を和ませる男ってかっこいいです。

 

 

 

作中では事故当時やその後の事故調査、それを取り巻く周囲の目やその中での機長の心情が時系列を混ぜて描かれます。報道で事故を見ていた僕たちは「乗客乗員全員が無事。機長の咄嗟の判断で全員が救われた。」というめでたしめでたしの英雄潭としてしかこの話を知りませんが、あくまで本作ではその後の出来事がメインの話になります。

 

こういった重大事故の後には徹底した調査が行われるそうです。専門の調査組織もあります。飛行機の残骸から状況を再現してシミュレーションし、管制との通信記録を精査し、パイロットの行動や判断・その根拠・更には当日の健康状態や精神状態まで根掘り葉掘り質問します。夫婦仲まで聞かれるみたいです。

 

世間では英雄として取り上げられ、街に出ても酒場に行っても宿泊先のホテルでも褒め称えられて握手を求められ、その一方で調査では徹底的に責任を追及されます。調査委員会もそれが仕事なので仕方ありませんが、基本パイロットに落ち度があると決めつけた前提で取り調べが行われるのは見ていてこっちも辛いし息苦しいです。

 

 

 

着水後の脱出ではギリギリまで機内に人が残っていないか確認し、連日「もし判断を間違えて市街地に墜落していたら」という悪夢や幻覚に悩まされる様子に機長の生真面目で責任感の強い繊細な人柄が見えました。報道されるような特別な英雄ではなく、事故の記憶やプレッシャーに悩まされる普通の人間として描写されてます。

 

そういった徹底した心理描写に加えて出来る限り忠実に再現された事故シーンが合わさって、映画的なスペクタクルとは違ったリアリティある重苦しい緊迫感が作中に漂っています。大勢の関係者を集めた事故シュミレーションの場面は事故シーンに負けない緊張感で、乗客乗員全員が救われた後も事故は終わっていないと思い知らされます。

 

 

 

事故シーンや重苦しい公開調査のシーンはそれぞれ別のベクトルで緊迫感があって(何せ実際の出来事なのでリアリティが半端じゃないです)、それが時系列を混ぜられて上手く退屈しないような作りになってます。人間ドラマとしても飛行機パニックとしても面白い映画でした。

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