堕落ディザイアー

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高村透 『逃げろ。』 感想

このブログの記念すべき1記事目は昔読んだ本のレビューです。

僕が高校生のときに買って読んだ本でまだ手元にあります。

 

いわゆる「終末もの」ジャンルで、隕石がもうすぐ落ちてくると報じられた世界の混乱と生き延びようとする人々が描かれます。

 

発売当初もあんまり話題にはならず、他の方のレビューも「個性を出そうと気取った文体が痛い」「登場人物の村上春樹かぶれの喋り方が鼻につく」など散々でした。なのに何故か僕はわりとこの本気に入ってて、今まで何回か本棚の大整理をしましたがこいつはまだ生き残ってます。

 

 

「隕石が降って来ます。逃げてください。」というニュースから始まり、ゆっくりと徐々に徐々に世界が荒れていく中で、20代後半のサラリーマンだった主人公、引きこもりだった少女、人を殺した警備員の老人など個性的な人々による生き残りをかけた逃避行が始まります。

 

最初は交通網が止まった、会社が無期限で休みになった程度の混乱だったのが、食糧や日用品の買い占め、政府からの物資配給場での暴動、殺人とエスカレートしていき、しまいには世紀末じみた暴徒の集団との戦いが繰り広げられます。そんな終末の世界が、淡々としていてむしろ穏やかなくらいの空気感で描かれて、エンタメ小説だけど文学的な色も出したかったんだろうな、と作者のやりたかった作風がうかがえます。まあそれがいまいち上手く回らず微妙な評価になってしまったわけですが。

 

主人公、少女、老人のメインキャラ3人を中心に前半、後半のパートに主要登場人物がそれぞれ数人ずつ出てきますが、どいつもこいつもえらくキャラが濃いです。キャラクターたちのセリフ回しもそれこそ村上春樹みたいな現実離れした会話で進み、終始どこかファンタジーじみた雰囲気が漂います。この癖の強い独特の雰囲気がかなり好き嫌いが分かれるところでしょうね。本人も自分の作風が不思議なのを分かった上でシュールさを狙って書いているそうです。

 

 

隕石はあくまで人間の心理を追い詰めるきっかけでしかなく、そこから引き起こされる人間同士の醜い争いや本能むき出しの暴走、心にトラウマや問題を抱えた登場人物たちの心情の変化に終始スポットが当てられます。まあ言ってしまえばよくある「本当に一番恐ろしいのは人間の心だった」的な物語ですね。

 

それでもこういうジャンルってそんなにぼんぼん大量製作される話じゃないし、ストレートな終末パニックをじっくり堅実に書き上げてくれてる作品ってすごく貴重です。突出して出来が良い小説じゃないかもしれませんが、この手の退廃的な物語が好きなら十分に楽しめるんじゃないでしょうか。

 

パニックや暴動のシーンなんかの派手さもあり、食糧を求めて動いたり人里離れた安全な場所へ逃げたりのお約束の展開もあり、個性的なキャラクターもありでエンタメ作品としてもふつうに面白いです。ヒロインポジになる少女は無口な不思議ちゃんで僕みたいな非モテ根暗男子の好きそうなキャラだし。

 

数年ぶりに思い立って作者の高村透さんを検索してみたら、『逃げろ。』の後も安定して作品が出版され続けてるみたいで安心しました。せっかく縁あって大事に作品を持ってる人だし、何か既刊を探して読んでみようかな。

 

そんなわけで、パニックや終末ものが好きな人にはおすすめです。意外な掘り出し物になるんじゃないでしょうか。