堕落ディザイアー

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三度笠 『男なら一国一城の主を目指さなきゃね』1巻 感想

三度笠(さんどがさ)さん著のライトノベルです。いわゆる異世界転生ものですね。不慮の事故死後に記憶はそのままにドラクエ的なファンタジー世界に飛ばされて、中世ヨーロッパ並みの文明の中を現代知識を活かして生きていく、というお話です。

 

 

この手のジャンルはあまり読んだ事はありませんが、この「男なら一国一城の主を

目指さなきゃね」は異世界転生ものの中でも異色な作りなのではないでしょうか。いわゆる「文明の遅れた未開人を相手に現代知識で無双して俺最強!」と馬鹿にされるタイプの異世界転生ラノベではありません。

 

 

 

まず前提として転生する人数の桁が違います。神々の小競り合いのとばっちりで列車とバスの衝突事故が発生。虫けら程度にしか思ってない人間とはいえ大量に殺してしまってなんとなく寝覚めの悪い神々がお詫びがてら事故の死者39人を別の世界に転生させて第二の人生を与えます。39人です。しかも一人に一つ「固有技能」という何らかの特殊能力も付けて。

 

メインとなる主人公の物語の幕間にはサイドストーリーとして他の転生者のお話も挟まれます。転生した異世界は10世紀前後の文明レベルなので新生児の生存率は高くありません。運の悪い転生者は病気やら魔物に喰われるやらで乳児のまま第二の人生を終えていきます。それがまた甘くないというかリアルです。

 

 

 

そんな甘くない世界を淡々と受け入れて、「せっかく第二の人生と固有技能を与えられたんだから」とのし上がっていこうとする主人公を描くのが本作のメインとなります。

 

この1巻では乳児〜幼年期の主人公アルが異世界や魔法・固有技能といった未知のものへの知識を深め、自分が出来る範囲で・周囲から不自然に思われない範囲で現代知識を導入して才能の片鱗を見せていく、という段階が描かれます。舞台はアルが生まれた村の中だけで、ストーリー上の変化はほとんどありません。

 

しかしこの異世界の設定がよくできてるし、アルが試行錯誤しながら徐々にその設定を理解していく過程が面白いです。HPやMP、レベルアップの仕組み、魔法の仕組みなどをアルの能力を絡めて自然に説明していくところが上手かった。しかもそれらの設定自体がRPG世界のパワーバランスを上手いこと調整できているし(普通に暮らしていればレベルは1桁程度で一般人ならレベル15もあれば驚異的な強さ)、異世界ではまだ未解明な能力アップの仕組みさえ分かれば効率よくハイペースで強くなれるようになっているのも主人公アルの異常なペースでの成長を自然なものにしていました。

 

まだ乳離れもできていない乳児のときから複雑な思考ができることや実は1歳の時点で大人並みに喋れることは隠し、上手いこと常識的な範囲内での「神童」と思われるように工夫してるのがまたリアルでした。確かに乳児の段階でベラベラ喋りだして未知の知識を語り始めたら「悪魔憑き」とか言われそうですもんね。実際に現代知識を持ち込もうとしても子どもだから相手にされなかったり、中途半端な知識しかなく全然うまくいかない他の転生者の描写も笑えます。

 

 

 

つまりは「いくら現代の知識を持って中世ヨーロッパに生まれ変わっても急にそんな上手くいかねえぞ」という点をリアリティをもって上手く描いているのが面白さのポイントなんだと思います。小難しい話も多いので読む人によって合う合わないが分かれると思いますが、まるで現代人が過去にタイムスリップした際のシミュレーションを読んでいるような気にもなれました。

 

そして主人公アルの経歴が、ちゃんと彼の程よい活躍っぷりの裏付けになっています。何せ6歳の天才少年の姿をしていますがその意識は「川崎武雄・44歳元自衛官・現サラリーマン管理職」です。特別な才覚はないけど世の中の平均よりしっかりと勉強してきて論理的思考力が高く、年齢もそれなりに重ねているので経験豊富なので今のところある程度順調に異世界を生きています。ただ見た目は少年頭脳はおっさんなので思考に可愛げなんた全くありません。

 

しかもこのアル、あまり主人公らしいとはいえないキャラです。元一般人らしく特別な正義感があるわけでもありません。ゲスいときはゲスいです。本のタイトル「〜一国一城の主を目指さなきゃね」もアルの個人的な野心から来ているものです。こういう邪道な主人公は個人的に大好きなので僕はアルにかなり愛着を持てました。

 

 

 

前述したようにこの1巻ではまだストーリーはほとんど進みません。しかし好きな人はこの巻だけで一気にとことんハマれる、完璧な導入巻だと思います。魅力的で奥行きのある異世界、そしてその中で主人公が慎重に堅実に頭角を現していく様を丁寧に丁寧に描いています。もう少し大人になって行動の自由度が上がったアルがこれからどんな風に活躍していくのか、現代知識をどう上手く活かしていくのかが楽しみです。2巻買いにいかなきゃ。