堕落ディザイアー

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建前と現実の境界 『ボーダーライン』感想(※ネタバレあり)

ボーダーライン(吹替版)

 

2015年に公開された、麻薬戦争を生々しくリアルに描くクライムサスペンスです。

 

FBI捜査官の主人公を演じるのはエミリー・ブラント。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』でトム・クルーズと共演したことで有名です。戦う強い女性の役が多いイメージです。

 

そんな主人公が国防省や軍の特殊部隊の合同麻薬捜査のチームに入ることになりますが、そこは今までいた職場とは全く違うルールで動く世界。誘拐事件の人質救出チームに長く居た主人公は、捜査のためなら非合法な手段も辞さないチームのやり方に次第に不信感を強めていきます。

 

メキシコの麻薬カルテル撲滅のために任務に志願したはずの主人公ですが、拷問やメキシコ市街地のど真ん中での銃撃戦、仲間の危険も辞さないおとり捜査、そしてそんな危ない捜査の全貌を自分だけが知らされないことで疑問を持ちます。しかも終盤になるにつれて明かされていく隠された事実は主人公にとっても映画を観ている人にとっても中々にショッキングな事実です。カルテル撲滅の建前を掲げて実際の目的は「節度をもったマフィアとの共存」という身も蓋もない妥協路線。しかもそのためには犯罪組織との協力姿勢すらとる捜査チームの姿は一般的な目線ではとても正義とは言えないでしょう。

 

 

 

実際の麻薬戦争がどんなものかは知りませんが、これが現実なのでしょうか。麻薬カルテルの撲滅なんて不可能なのかもしれません。正義のために悪の組織を潰すなんて、「そんなの夢物語だ」と言わんばかりに映画はメキシコの街の現実を突きつけてきます。特にカルテルに協力している汚職警官が妻や息子と送るごく普通の日常の描写が印象的です。警官を買収して街の中に巣食って、至る所に手を伸ばしている麻薬カルテルはもはや社会の構造の一部となってしまっている、ということを象徴しているようでした。

 

明らかに悪事に手を染めてそうな武装したいかつい入れ墨兄ちゃんの集団も日常の風景。重武装の警官隊も日常の風景。街中で始まるドンパチも新聞にすら載らない日常の風景。子どもたちの野球の試合が行なわれる最中に遠くの方で聞こえる銃声も日常の風景。

 

国境を挟んだすぐ隣にそんなどうすることもできない世界があって、それを前に捜査チームのとれる解決策は「麻薬カルテルの手が伸びてきても、度を超してアメリカを浸食しない限り見逃す。節度を守って麻薬を扱うカルテルに協力して延命させる」というのが限界なんでしょうね。

 

 

 

邦題の「ボーダーライン」はかなり秀逸なタイトルだと思います。アメリカとメキシコの境界線、善と悪の境界線、理想論と現実的妥協の境界線、そんな色々なボーダーラインが描かれる映画でした。

 

そしてアメリカの常識、その範囲内での善、ごく一般的な犯罪撲滅思想(理想論)を持つ主人公は自分のいる世界の境界線を超えて違う世界に放り込まれます。彼女の視点は平和な世界を生きてきた僕たち観客の視点そのものでした。

 

 

 

派手さはなく淡々と描写される社会の現実が印象的な映画でした。ドキュメンタリーのようなノンフィクションのような話です。見終わった後は外国の悲惨なニュースを見たような感覚になります。

 

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