堕落ディザイアー

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「ゾンビ」が差別される時代 『ゾンビ・リミット』感想

ゾンビ・リミット(字幕版)

2013年製作の映画です。プロデューサーは名作ゾンビホラー「REC/レック」を手がけた人なんだとか。

 

とりあえず、邦題とジャケット画像が悪すぎる。 まるで「バイオハザード」ばりに女性主人公がゾンビと戦う映画みたいな雰囲気ですが、実際はゾンビ映画的な要素はほとんどありません。ホラーというよりは、徹底的に人間のエゴを描くサスペンスです。

 

ゾンビウイルスの感染が広まったものの、感染者の死体からとれるタンパク質で対処薬を作り、それを定期的に注射することでゾンビ化の症状を抑えられるようになった世界。感染してもゾンビ化する前にその薬を打ち始めることで、人間らしさを保ったまま社会生活を続けられるようになった世界が映画の舞台です。

 

薬の投与で人間らしさを保ちながら生きている人々は「リターンド」と呼ばれ、社会的に冷遇されて暮らしています。ゾンビ化を抑えるためには一生薬を投与し続けなければならず、莫大な税金が投入される。もし薬の投与を怠ればその人はゾンビになり、周りの人を襲いだす……そんな危険も抱えているリターンドが迫害を受けるのは、ある意味で仕方のない流れなのかもしれません。

 

 

 

主人公の女性ケイトは病院でリターンドの治療やリハビリを行なう医師で、彼女の夫アレックスはリターンドです。

 

世間にはアレックスがリターンドであることを隠しながら暮らしていますが、ケイトは医療関係者なのでゾンビ化を抑える薬が枯渇しかけていることを知っており、薬の供給が止まる日に備えて病院で横流しされる薬を溜め込んでいました。

 

そして遂に薬が尽きるとき、リターンドのゾンビ化を恐れる市民や過激派、生きながらえようとするリターンドたちはそれぞれ暴走していきます。

 

 

 

ゾンビ感染が「発症を抑えることができる病気」になっている世界、というのは新しいアイデアで面白かったです。危険な難病ではあるものの、感染=必ず死ぬ、というわけではなくなった世界。そうなると当然、「人間とゾンビ(予備軍)が共存する」という時代がやってくるわけですよね。

 

48時間薬を打たなければゾンビになってしまう人が街中に、職場に、電車の隣の席にいる世界。どう思うでしょうか。正直「怖い」と思えてしまいますよね。

 

その一方で、もし自分がゾンビウイルスに感染して、即座に病院で投薬を受けたことで命からがら発症を抑えることができたなら。それはもう当然、薬にすがりながらでも長生きしようとするでしょう。たとえ自分が発症したら周りを襲う危険があっても、たとえ自分が生き続けることに多額の税金がかかるとしても、いざ自分がその立場になったら周りへの危険や迷惑なんて考えず生きたいと思うはずです。

 

 

 

「薬が枯渇する」という噂が広まることで、非感染者とリターンドのそれぞれのエゴがむき出しになってぶつかっていく展開は素直に怖いです。「人間が一番恐ろしい」というベタな文句がこれ以上ない説得力をもって頭に浮かびます。

 

主人公ケイトもアレックスを救うために、正義も倫理観もかなぐり捨ててエゴに走ります。そしてその天罰なのか、全てが悪い方向に転がっていく後半の展開はあまりにも救いがありません。

 

 

 

終始暗い雰囲気が漂う退廃的な作品ですが、「ゾンビ」というものを全く新しい視点から描いたストーリーやそこに込められたメッセージは秀逸でした。

 

ゾンビ映画というよりは、変わり種の人間ドラマ・サスペンスとしておすすめの作品です。