堕落ディザイアー

ずっと家でゴロゴロしながら映画を観ていたい

この映画がエンタメ作品として作られたことの意味 『パトリオット・デイ』感想

パトリオット・デイ(字幕版)

2013年に起こったボストンマラソン爆弾テロ事件」を題材にしたノンフィクションサスペンスです。

 

2人のチェチェン人の男が圧力鍋を用いた手作りの爆弾2つをマラソンのゴール付近に集まった観客のど真ん中で爆発させ、死者3名、負傷者280名以上という大惨事を引き起こしたこの事件。

 

当時は日本でも連日ニュースでやってましたね。報道されるショッキングな事件映像が記憶に残ってる人も多いと思います。

 

そんなこの事件ですが、犯行に及んだ2人の犯人が事件発生からわずか102時間後に確保されるというスピード解決で幕を下ろしたことは意外と知られてないのではないでしょうか。この映画では、そんな事件の始まりから結末までがほぼ事実通りに描かれます。

 

作中に登場する警官やFBIの捜査指揮官、被害者や犯人は実在の人物の実名がそのまま用いられてます。日本では「テッドの相棒の人」として有名なマーク・ウォールバーグ演じる主人公トミー・サンダース巡査部長は架空の人物ですが、事件の様々な場面に関わった人々を統合したキャラクターだそうで、観客が事件に一貫して入り込むための役割も担ってるように感じました。

 

 

 

近年の悲惨な事件を題材にしたノンフィクション映画は思想的・政治的・感情的な理由で賛否両論になることが多いですが、この作品も例に漏れず様々な評価を受けました。

 

批評家サイドからは大体が平均を頭一つ抜き出た高評価だったものの、事件の当事者である地元サイドからはストーリーのヒロイックな部分、シンプルな勧善懲悪の物語に仕上がってる部分が批判的に受け止められたそうです。ただ、「作り手の事件に対する真摯な姿勢・被害者に対する敬意は感じる」といった意見も出てます。

 

何せ事件が起きた2013年から映画が公開されるまでたった3年です。歴史上の重大事件を映画として残す、というには被害に遭った人たちの気持ちが落ち着くまで十分待たれたとは言えない感じもあって、ちょっと早すぎたんじゃないかな、とも感じられます。あと5年待っても良かったんじゃないかな。

 

 

 

で、実際に映画を観た感想としては、誤解を恐れずに言うと「ひとつの事件が解決するまでを追うサスペンスとして面白かった」です。プロの脚本家や演出家、監督や役者が関わった映画なんだから当たり前ですね。

 

この「面白かった」という部分、この手の映画だと言っちゃいけないような風潮がちょっとありますよね。「事件の悲惨さが身に染みて感じられた」みたいな感想しか許されない雰囲気があるというか。

 

もちろん爆発シーンの背筋が凍る感じや飛び散った血や肉、被害者の阿鼻叫喚が響く地獄絵図は心底怖いです。これが実際に起こったなんて考えるだけで怖くなります。

 

ただ、小さなヒントから捜査が進んで真相に迫っていく展開、犯人とのド派手な攻防、最後のカタルシス、主人公たちのキャラクター性、どれをとっても一級品のクライムサスペンス映画として惹きこまれるのは確かです。

 

ひとつの映像作品として間違いなく優れてるからこそ、これだけ話題になって大勢の人の目に触れる機会があったんですよね。事実を忠実になぞりながらこれだけドラマチックでスリリングで疾走感溢れる映画になってるのも、製作陣がこの映画を本気で一流のエンタメ作品にするために全力を尽くしたからです。

 

後半で逃走する犯人たちと警官隊が派手な銃撃戦をくり広げる展開なんかはアクション映画として手に汗握りました。しかもさすがに脚色だろうと思ったこの戦いも実際にやってるっぽいし。

 

もしこの映画が関係者への取材とナレーション、事件映像を織り交ぜたドキュメンタリーだったら世界興行収入が50億円を超えたんでしょうか。大作の新作DVDとしてレンタル店に並んだでしょうか。もしそうだったら見てなかった、事件の詳細を知ることがなかった人も相当数いるんじゃないでしょうか。

 

ひとつの物語として作られたからこそボストンマラソン爆弾テロ事件は何百万人もの人に詳細に知られることになった、というだけでもこの映画の存在意義は大きいと思います。

 

 

 

ただ、前述したようにそうやってヒロイックなストーリーとして映像化するにはこの事件は早すぎたんじゃないか、と個人的には思います。

 

9.11を題材にした「ワールド・トレード・センター」も事件から映画まで5年ありました。それでも多くの人が事件当時の恐怖を思い出す作品として、デリケートな扱いをされました。

 

この『パトリオット・デイ』も、部外者にとっては事件を詳細に知るきっかけになる作品ですが、被害者や関係者にとってはまだ鮮明に思い出せる生々しいトラウマを呼び起こす作品に感じられてしまったんでしょう。

 

一方で「事件を風化させる前に映画化したかった」と言われるとそれにも納得できてしまって、この塩梅はかなり難しいところだなー、と思います。正解も何もないですからね。

 

 

 

ノンフィクションの物語ですが、決してどんよりなる悲壮感漂う映画ではなく惹きこまれるアクションサスペンスでもあります。最後には感動もできます。

 

なので気軽に手に取って、なるべくたくさんの人の目に触れてほしい映画だな、と思いました。