堕落ディザイアー

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日本の建築美とハリウッドの映像美の融合 『ロスト・エモーション』感想

ロスト・エモーション(字幕版)

リドリー・スコット製作総指揮のSF映画です。

 

舞台は近未来。戦争で世界のほとんどが崩壊した後、生き残った人類は「感情こそが争いの原因だ」と人間の感情を極限まで抑制します。無感情な人々が淡々と生活する社会が形成され、何らかのきっかけで感情が表れた人は「発症者」として抑制剤を飲み、それでも感情が抑えられなくなると安楽死させられます。

 

そんな社会で暮らす青年サイラスは、ある日ニアという女性が感情を持ちながらもそれを隠して生きていると気づきます。彼女に興味を持ったサイラスにも次第に感情が戻り、二人は社会の規則に反して男女として惹かれあっていく…というお話です。

 

 

 

「感情が抑制されるようになった社会」というのはSF界ではわりとよくある題材ですね。ディストピア的な管理社会の定番のひとつです。この『ロスト・エモーション』は、そういうSF映画の中でも特に「恋愛物語」としての要素が強い作品でした。SF版「ロミオとジュリエット」ですね。

 

主人公サイラスを演じたのはニコラス・ホルト。「ウォーム・ボディーズ」や「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、「X-MEN」シリーズのビースト役で有名ですね。長身と濃い顔立ちが印象的なイケメンです。

 

彼と恋に落ちる女性ニアを演じたクリステン・スチュワートは僕は名前くらいしか知りませんでしたが、「トワイライト」シリーズの主演だったんですね。アイドル的な人気の強い女優なのかと思ってたらがっつり演技派で、影のある雰囲気に魅了されました。

 

 

 

ストーリーはわりとベタベタの悲恋ものでしたが、映像で徹底的に作りこまれた世界観がとにかく静かで冷たくて美しかったです。白一色の風景は病的なまでの清潔感が漂ってて、綺麗なのに少し不気味な雰囲気がありました。

 

この映画、ロケ地のほとんどが日本らしく、世界的に有名な建築家・安藤忠雄が手掛けた建物で撮影が行われたらしいですね。言われてみると確かに日本の美術館っぽい背景が目立ちました。

 

そんな印象的なロケーションをさらに際立たせるように画面全体の色味が薄く加工されていて、前半はとくに登場人物の肌に至るまで透き通るような白さが印象的でした。そして病的なまでの白い画作りから、主役の二人が初めて感情全開で交わった後のシーンでは彩度の高い温かみのある映像になります。その落差が鮮やかで、登場人物の変化が映像にも表れててインパクトがありました。

 

 

 

淡々とした世界観だからか音楽もほとんどない静かな映画でした。そして登場人物たちの心の動きがとにかくじっくりゆっくり描かれます。そんな作風のためか、レビューでは「退屈」という声もけっこうあるみたいですね。僕はSF小説を読んでるみたいで好きだったけど。

 

アクションも流血もなく、ただ世界観と心情描写でじわりじわりと見せるハードSFです。ロケーションの建築美、徹底的に作りこまれた映像美、ストーリーが一体になっていて見入りました。あと作中で描写される食事がやたら美味しそうだったけど何かこだわりがあったのかな。

 

多少人を選ぶ映画だとは思いますが、この手のディストピアSFが好きな人ならほぼ間違いなく楽しめるでしょう。